《後編》母が変わった日、息子は自分で動き始めた

子育て

父への捉え方がほどけたあと、
サナエさんの中でもう一つの変化が起きました。

それは、息子さんへの見方でした。

彼女はずっと、こう思っていました。

「父親がいないから、私が厳しくしなければ」

「辞めたいと言うたびに辞めさせていたら、
甘ったれになる」

小学生のころ、
ワタル君はサッカーを習っていました。
あるとき彼は、
「コーチが横暴だから辞めたい」
と言いました。

サナエさんは、
その気持ちは理解できました。

けれど、
辞めさせたら甘ったれになるのではないか。
そんな迷いの奥には、
ずっと心に刺さっていたママ友の言葉がありました。

「そんな辞めたいって言うたびに辞めさせてたら、
甘ったれになるよ」

「考えられる子」という捉え方

でも私は、こうお伝えしました。

本当に息子さんに必要なのは、
「厳しい父親の役割」でしょうか。

それとも、「嫌だ」と言ったときに、
その気持ちを受け止めてくれる母でしょうか。

横暴だと感じる相手のもとに居続けることが、
本当に“根性”なのでしょうか。

私はそれを「甘ったれ」ではなく、
「考えられる子」だと捉えました。

ワタル君は、
監督やコーチという大人であろうと
横暴だと感じました。

自分の価値観として嫌なことを嫌だと感じ、
そしてそれをお母さんに伝えたのです。

自分の気持ちや考えを伝えられる関係性。
それこそ、
ワタル君がお母さんを信頼している証です。

サナエさんとワタル君の間には、
すでに風通しの良い関係性が築かれていました。

昭和の時代から続いてきた価値観があります。

「一度始めたら辞めてはいけない」
「耐えてこそ根性がつく」

でも本来、
人は好きなことを伸ばしているときにこそ
力を発揮します。

その中で
自然と自己肯定感も育っていきます。

反対に、嫌だと感じる場所に
親にも言えず耐え続けることで、
親への信頼、他者への信頼、
そして、自分への信頼が
少しずつ削られていくこともあります。

「甘ったれになる」

それは昔から伝わる価値観がつくり出した
思い込みなのかもしれません。

その思い込みに縛られて
子どもの心や価値観を軽視してしまうことが、
本当に明るい未来につながるのでしょうか。

サナエさんは言いました。

「そんな考え方、
今まで聞いたことがありませんでした」

そしてこう続けました。

「ワタルの意思を尊重していいんですね。
なんだか肩の力が一気に抜けました」

自分に優しくするという宿題

私はさらに、こうお伝えしました。

「明日から、自分に
とことん優しくしてください」

朝起きたら、自分に「おはよう」と言う。
何を食べたい?何がしたい?と自分に聞く。
そしてそれを叶えてあげてください。

嫌なことがあっても、失敗しても、
「頑張ったね」「偉いね」と
自分に言ってあげてください。

決して自分を責めないこと。
内側の自分を大切に扱うこと。

彼女は笑いながら言いました。
「何なんですか、それ」

でも最後には、こう言ってくれました。
「やってみます」

監視をやめた日から起きた変化

この日から、サナエさんは、
少しずつ自分に優しくすることを始めました。

すると、すぐに変化は始まりました。

ワタル君への監視が、
自然と収まっていったのです。

これは、自然な変化です。

自分に優しくできると、
人は他人をコントロールしようとしなくなります。

逆に、自分に厳しいときほど、
周りにも同じ厳しさを向けてしまうものです。

だからこそ、
自分に優しくすることは
結果的に他人への優しさにつながっていきます。

そして、その変化は
ワタルクンとの関係にも現れました。

それまで彼女は、
父親の役割も母親の役割も背負い、
息子を甘ったれにしないために
監視していました。

とにかくワタル君の将来が心配で、

「高校で人生が分かれてしまう」

そう思い込んでしまっていた彼女は、
のんびり過ごしているワタル君を見ると
心配に飲み込まれてしまい、
口を出してはバトルになっていました。

「勉強しなさい!」

そんなこと言いたくないのに、
言ってしまう自分に苦しんでいました。

でも、
「自分に優しく」を始めた、あの日から

何も言わない自分がいました。

やっぱり、少し怖かったそうです。
それでも黙って見ていました。

すると少ししてからワタル君が、

「そろそろ宿題やんなきゃな」

そう言って、
自分から机に向かったのです。

その瞬間、彼女は気づきました。

私は息子の「自分でやるタイミング」を
今まで奪っていたのかもしれない、と。

いつも私のタイミングで動かしていた。
でも彼には彼のリズムがあった。

そんな当たり前のことに、
ハッと気づいたのだとサナエさんは言いました。

TERESA’S MESSAGE

今、サナエさんは、

「もちろん、言うときは言います。
でも、言わなくていいことは言わない。」

「その線を、自信を持って引けるようになりました」

そんなサナエさんは、以前よりずっと楽に
ワタル君を見られるようになったそうです。

子どもに本当に必要なのは、

父親のように厳しくすることではなく

お母さんがいつも笑顔で
安心できる存在でいること。

それが、ワタル君にとって
何より必要だったのだと思います。

そしてそれは、

彼女自身が
「厳しく育てられた子ども」から

「自分を受け入れられる大人」へと
一歩進んだからこそ起きた変化でした。

母が変わると、
子どもは安心して自分を生き始めます。

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