捉え方が整うと、現実が動き出す
人は、怒りや不安に飲み込まれているとき、
本来の自分ではない選択をしてしまいます。
冷静なときなら、絶対にしない行動を、
まるで何かに突き動かされるように選んでしまう。
怒り、不安、焦り——
その中で選んだ行動は、ほとんどが後悔につながります。
今回お話しするのは、
まさにその状態にいた、クミコさん(仮名)のお話です。
違和感から始まった出会い
クミコさんとは、
ある習い事の教室で出会いました。
その日、彼女は何度も外に電話をしに行き、
Wi-Fiの繋がりを気にしては落ち着かない様子で、
教室の中でもずっとそわそわしていました。
「どうしたんだろう」
「大丈夫なのかな」
少し心配になりながら、私はその様子を見ていました。
お昼休みになり、たまたま一緒に食事をすることになったとき、
私は思い切って声をかけました。
「何か急ぎの用事でもあったんですか?」
すると彼女は、少し迷うような表情をしたあと、静かに話し始めました。
「離婚しよう」と言われた日
「実は⸻
旦那から
“離婚しよう”って言われてるんです。」
その言葉を聞いたとき、
彼女は初めて号泣したそうです。
そしてそのとき初めて、
自分が旦那さんを愛していることに気づいたのだと、
話してくれました。
わかってほしかっただけだった
これまで彼女は、長年にわたり旦那さんに対して
強い言葉や態度をとり続けてきました。
仕事で忙しく、ほとんど家にいない旦那さん。
その中で彼女は、子育てと義母のサポート、
そして自分の仕事をこなしてきました。
それでも、ねぎらいの言葉はなかった。
いや、感謝の言葉が欲しかったのではない。
「私が家族のために頑張っているのを
ただ、分かっていて欲しかった」
クミコさんは、そう言いました。
そして、気づけば⸻
不満は積もり続けていました。
「分かってほしい」
その思いは、
旦那さんの
何気ない言葉や行動にも、
怒りとなって反応し、一つ一つに、
イラっとしたり、カッとなったりと
攻撃に繋がっていました。
そんな長い時を過ごしたあるとき。
旦那さんのほうから、こう言われました。
「子育ても終わったし、
これからは二人の時間を楽しもう。
仕事も抑えて、時間を取れるようにする。」
そう言われて、クミコさんは本当に嬉しかった。
これまでの不満はもう流そう⸻
そう思えたのです。
でも、現実派変わりませんでした。
「話が違うじゃないか」
その思いが、
再び大きな怒りとなり湧き上がりました。
旦那さんの忙しさは、
以前までなら、不満はありつつも流せた。
でも、もう流すことができませんでした。
「これからは二人の時間をゆっくりとる」
あなたからそう言ってきたんでしょ?
約束が違う。許せない。
そして彼女は、
2度、自ら離婚届を差し出しました。
本気で離婚したかったわけではありません。
ただ、気づいてほしかった。
約束をしたこと。
それだけじゃない。
私との時間、
私という存在、
そして、私の価値に。
離婚届を渡すと、
旦那さんはクミコさんを引き留め、
心から謝ってくれはしました。
もともとは⸻
仕事人間だけれど
クミコさんを愛している、
優しい旦那さんでした。
関係は一時的に戻る。
その繰り返しだったのです。
孤独と怒りが積み重なった日々
そして数年前、
大きな引っ越しを決意しました。
生まれ育った地を離れ、
知り合いも誰もいない遠い地へ。
「今度こそ一緒にいられるから。
仕事が今ほど忙しくなくなるから。」
そう言われて、信じて、来たはずでした。
けれど、また同じ現実。
旦那さんは、相変わらず忙しく、
彼女は一人で過ごす時間が続きました。
知らない土地。
孤独。
そして怒り。
その積み重ねの中で、
彼女の言葉や態度は、さらに強くなっていきました。
疑いが生まれた瞬間
数年が経った、ある日のこと。
旦那さんから1通のLINEがきました。
「お前は、
俺をもう愛していないんじゃないか?」
彼女は、そのLINEを無視しました。
いつものやりとりだと思ったからです。
そして、1か月後。
「離婚しよう」
直接言葉で告げられました。
⸻
彼女はそこで初めて謝りました。
初めて、言葉に出して伝えました。
「ごめん」
「本当は、あのLINEを見たとき、
すごく苦しかったのに、
でも、素直に言えなかった。」
「別れたくない」
でも旦那さんは言いました。
「もう決めたことだから」
「俺の気持ちは変わらない」
いつもの喧嘩なら、
なんとなく旦那さんが折れてくれる。
でも、この時の旦那さんは
もうクミコさんの言葉を受け入れる様子は
ありませんでした。
クミコさんはこのとき、
本当に終わってしまうのだ…と気づきました。
⸻
クミコさんは、ここで初めて
旦那さんのことをどれだけ愛していたかに
気付いたと言います。
「私はあなたを愛している」
「今まで本当にごめんなさい」
「私、変わるから。
これからの私をみてほしい」
そう言って、号泣しながら旦那さんに
しがみつきました。
でも、旦那さんはこう言いました。
「もう決めたから」
「俺の気持ちは変わらない」
「それに、
人は簡単には変わらないよ。」
⸻
それでも彼女は変わろうとしました。
自分の内側を整えるための教室にも通い始めました。
しかし、ある出来事が起きます。
車のカーナビ履歴が消されていたのです。
そこから、彼女の疑いが始まりました。
「女がいるのではないか」
その疑いは、怒りと不安の渦となり、
彼女は一日中、
旦那さんが誰かと過ごしている姿を想像しながら
過ごすようになっていきました。
「証拠を取るべき」と言われ続けて
彼女は、
不安に耐えきれず、複数の人に相談します。
友人、整体師、占い師、霊媒師⸻
現状や未来が見えると言われる人たち。
このときのクミコさんは、
ただ一つ⸻
安心したかったのです。
道を示してほしかった。
この先どうなるのか、教えて欲しかった。
そして、
相談に行く先々で、誰もが同じことを言いました。
「探偵を雇った方がいい」
⸻
彼女は、
もう居てもたってもいられず、
探偵事務所へ走ります。
迷いなく
その門を叩きました。
しかし⸻
調査の具体的な方法や現実を聞くうちに、
彼女の中に迷いが生まれました。
「本当にここまでしていいのか…」
「まずは、話を聞きに来ただけだったのに…」
それでも、
「今契約しないと間に合わない」
その言葉に押され、
その場で契約してしまったのです。
ただ一人、違うことを言った人
その翌日。
私たちは出会いました。
彼女が教室で落ち着かなかった理由。
それは⸻
証拠のために、ドライブレコーダーの復元を
お願いしている店とのやりとりしていたからでした。
探偵。
そして証拠集め。
彼女の表情は険しく、
その行動すべてが、
怒り、不安、疑いの中での選択でした。
そこには、
状況を俯瞰して見ている冷静な彼女はいませんでした。
私は、すべての話を聞いて伝えました。
「怒りや不安、焦りの中で決めた行動は、
必ず後悔します。」
そして、こう続けました。
「行動は、
冷静なときでも“それをしたい”
と思えるときだけ、選ぶべきです。」
そして私は言いました。
「探偵を、キャンセルしませんか?」
⸻
彼女は驚いていました。
彼女がこれまで相談してきた人の中で、
そんなことを言う人は、
誰一人としていなかったからです。
「どうして、初めて会った私の話を
こんなにも真剣に聞いて、
そこまで言ってくれるんですか?」
私は答えました。
「話してくれた以上、
本気で答えるのは当たり前です」
⸻
その夜。
彼女は探偵をキャンセルをしました。
それが
私とクミコさんの出会いでした。
※クミコさんがなぜここまで苦しくなってしまったのか。
その「心の奥」になる原因については、こちらで詳しく書いています。
—その行動は ”記憶から生まれた反応” だった
けれど⸻
ここからが、
本当の始まりでした。
彼女は何度も不安に引き戻され、
怒りと絶望の渦に自ら入り込んでは、
何度も同じ選択をしそうになります。
「やっぱり証拠を取りに行くべきだ」
「自分を整えてなんの意味がある?」
何度も揺れ、
何度も立ち返り、
そしてまた、揺れる。
人はそんなに簡単に変われない⸻
そう言われた意味を
彼女はここから何度も何度も
体験していくことになるのです。
第2話へ続く
※公開するまで少しお待ちください。
TERESA’S MESSAGE
怒りや不安に飲み込まれているとき、
人は「今すぐ答えを出したい」衝動に駆られます。
白か黒か、はっきりさせたい。
苦しいこの時間を、今すぐ終わらせたい。
クミコさんも、まさにそうでした。
「内側を整えている場合じゃない。」
「証拠を取りに行くべきだ。」
「はっきりさせたい。」
でも、本当の幸せは
心が穏やかな状態であること。
怒りの衝動で動いた先に
心の安定は待っているでしょうか?
怒りの中で決めたことは、
あとで自分を苦しめます。
この話は、「探偵をやめた方がいい」
という話ではありません。
本当に伝えたいのは、
怒りや不安の渦の中で、
選択を決めないこと。行動しないこと。
いつも穏やかで冷静な中での選択であることです。

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